High Altitude Survival

「雪解け水」のサバイバル物理学

透明な誘惑に潜む、浸透圧の罠と大気の汚れ

Meltwater Crisis

Distilled Water Hazards in the Field

5月の連休、1500mを越える山々にはまだ分厚い雪の塊が残っています。その脇を流れる清冽な水。一口飲めば喉を潤す最高のご褒美に見えますが、実は**「最も身体に負担をかける水」**の一つであることをご存知でしょうか。雪解け水は、大気から地上に落ちる過程で不純物を吸着し、一方で体に必要なミネラルを全く持っていません。

リスク1:浸透圧のバランス崩壊

雪解け水は「蒸留水」に近く、イオン濃度が極めて低いです。これを大量に飲むと、体内の細胞からミネラルが水側へと吸い出され、逆に激しい喉の渇きや、場合によっては心機能不全(水中毒)を引き起こします。

対策:必ず「塩」を一粒入れるか、粉末ドリンクを混ぜてイオン化してから飲むこと。

リスク2:濃縮された汚染物質

5月まで残っている雪は、冬の間に降り積もった空気中の埃、煤(すす)、そして黄砂を含んでいます。

  • 表面の汚れ: 雪が解ける際、不純物は表面に濃縮される傾向があります(「赤い雪」や「黄色い雪」はそのサイン)。
  • 細菌・カビ: 雪の上には「雪氷藻類(せっぴょうそうるい)」という微生物が繁殖しており、それが腹痛の原因になることもあります。

Survival Protocol: 「煮沸」が唯一の防衛線

見た目がどんなに澄んでいても、雪解け水は「汚れた氷」が溶けたものです。浄水器を通すのはもちろん、必ず煮沸して殺菌することを忘れないでください。冷たい水をそのまま飲む快感と、その後の下痢による体温低下、あなたはどちらを選びますか?

Thirst is an Illusion, Hydration is a Science.

5月の高山。水に苦労することはない季節ですが、その「質」を見誤れば、山は牙を剥きます。知識という名の浄水器を常に心に備えておきましょう。